「…『彼』に渡さずに
焼却処分にしちゃうとか?」
そっとジュンジュンに
耳打ちする。
「まさか!」
だよね。
「じゃ私達が
サインを偽造するとか?」
「ば〜か!」
ジュンジュンが色紙で
私のアタマを叩いた。
「ちゃんと『彼』に渡して
書いて貰うよ」
「字、書けないでしょ!?」
私のツッコミに
ジュンジュンは
余裕で微笑んでみせて
「定規をガイドにして
スゴイ器用に
キレイな字を書くよ」
失明するかもしれないと
お医者さまに
宣告されたときから
目を使わずに
字や絵をかく練習を
続けてきたという。
「……」
何だか意外だった。
努力とか忍耐とか
一番似合わないタイプだと
思い込んでいた。
私って本当にあきれる程
『彼』という人間を
知らない。
学校では
目立たなかった『彼』。
誰の印象にも
残らなかった『彼』。
実は絵画の世界では有名で
実は物凄い美形で、俺様で。
母親の仕事。
ちいさい頃の生活。
元御曹司。
施設での生活。
英語はペラペラ。
ホテル王がスポンサー。
世界中に信奉者がいる。
『彼』を表現する
キーワードは
どれも
いい意味でも
悪い意味でも
突出していて。
平凡な目立たない
高校生からは程遠いモノで。
知れば知るほど
謎めいてくる。