「……」

『彼』がこのチョコのコト
覚えてるって

話してあげるべきなのかな。


『彼』の話題を
口にするのを戸惑っていると


「あ、チョコ苦手でした?」


お母さんが私の様子を
気遣ってくる。


「チョコ大好きです」


やっぱり
お母さんは変った。


「じゃ、失礼しますね」

お母さんはカッコよく
自転車に乗って

ビルのむこうに
消えていった。


言いそびれちゃった…。


でも。

自分のコトばっかりで
ヒトのコトなんて
眼中にないってカンジだった

あのお母さんが

ここまで
変わっていたなんて。


あのパリパリの金髪より
今の黒髪の方が

何故かこのヒトの本質に
近いんじゃないのかなと
思ってしまう。


笑顔が相変わらず
淋しそうではあるけれど

どこか晴れやかで…。


掌に残された真実。

「安っぽい味の…」
チョコを口にする。


やさしい味。


10円チョコの甘さに
お母さんの気持ちを
見てとれるようで

ちょっと切なかった。


上手くいかないね。

大切なヒトを
大事にできない。


そのフラストレーションたるは
私と何ら変わらなかった。


コートにチョコの包み紙を
まるめて突っ込む。


「お母さんの気持ちも
いつか伝わるといいな」


初めて
ココロからそう思った。