素人の私が見ても
過剰演出だと思える。
トンネルのように
わざと通路を狭めていたり
あの八角形の大量の
ちいさな鏡のような欠片は
いったい何に
必要だというのか。
「…そうは言ってもさあ」
監督さんは
炊き合わせのゴボウを
口に運びながら
「俺は生野菜より
こっちのがだんぜん好み
なんだよなあ〜」
私に笑いかける。
「生かすも殺すも
料理人の腕次第。
お手並み拝見ってトコだな」
ジュンニイを
フォローしてくれたのか。
プレッシャーを
かけているのか。
私には判断が
つかなかったけど。
「…みなさんが心配される
気持ちはわかります」
ジュンニイが重い口を開いた。
「でも。今回の
『彼』の作品には個人的に
特別な思い入れがあるんで。
ちょっと譲れないんです」
ジュンニイのまっすぐな目に
誰もが次のコトバを
飲み込んで。
「ごちそうさま」
「おいしかったです」
私には笑顔で愛想よく
気を遣ってくれたけど
作業に戻るその背中は
どこかみんな重々しかった。
大相撲を観に行ったとき
自分のプロデュース作品だと
連れて行ってくれた
ミッドセンチュリーなお店。
自分の仕事は
クライアントと時流の
すりあわせだと
私に話してくれていた
ジュンニイ。
なのに
らしくない。
孤立してまで
やり遂げなければ
ならないようなコトだと
言うのか。
「…弁当は嬉しいけど
現場は危ないし。
あんまり
かまってやれないから」
もう来ないでという
意味だって
すぐにわかったから
「これからはホテルの方に
逢いに行くね」
私の方から
そう切り出すと
ジュンニイは
安心したみたいに微笑んで
作業に戻って行った。
「おはよ〜ございます!」
でっかい声がコダマする。
マユコさんだ。