「俺、今、手汚いから」

唇だけ接触させる。


アクリル板の陰に
隠れるようにして

小鳥のように小さなキスを

何度も
何度も

私の唇に送り続けた。


両手が使えないのが
もどかしいらしく

ジュンニイの
宙に浮いた手に
力が入っている。

思わずその腕を掴んで

今度は私から
唇を寄せていった。


「…盛り上がってるトコ
悪いけど」


「!!」

「アニキ。
ミスターが探してるよ」


ジュンジュンの声に
アクリル板の外を覗くと

スタッフみんなが
こっちを見て
笑いをこらえてる。


「全部
丸見えなんですけど」

ジュンジュンの指さす
そこには

おおきな鏡が
立てかけてあって


「全部
見られてたんだ!!!」


私の恥じらいに
スタッフが爆笑する。


「いいねぇ。
若いってのは。

初々しくって」


スタッフの
冷やかしの口笛が

あちこちから
聞こえてきた。


「ヒメって
場を和ます空気
持ってるよね〜」

ジュンジュンが
無責任に笑う。


「ジュ〜ン!」

ミスターが現れて

自分の巨体を
ジュンニイの後ろに
隠そうとする。


「バカ外人!!
こんなトコロにいたのッ!」


すごい剣幕で
追いかけてきたマユコさんが
英語で捲し立て始めた。

…マユコさんコワイ。


ジュンジュンが
目くばせしてきて

そっとふたりで
その場を離れた。


「もう帰るのかい?」

監督さんの声に足が止まる。