カタカタと心地よく
揺れる午後の電車。

制服を着て
ジュンジュンとこうやって
電車に乗るのも
あとわずかだ。

この見慣れた風景も
やがては想い出に
変わるのだろう。


そう思うと
電車の中の全てが
愛おしく思えてきた。


「あ…」

つり広告にふと目が止まる。


「ジュンジュン。あれ…」

私が指さす広告に
ジュンジュンの顔が
ぱっと明るくなった。


「間に合ったんだ!」


それは『彼』の個展の
開催を知らせる
美術館の広告で

【産卵】とタイトルが
ついていた。

そこには
『彼』の絵もなくて

一瞬、何の広告か
わからないようなモノ
だったけど。


「前売りチケットだけで
完売状態で

当日券は出ないって
聞いてたからさ。

宣伝や広告とか
打たないのかと
思ってたんだけど」


「…チケット
売り切れちゃったんだ」

凄い意外だった。


一時はスキャンダラスに
世間から扱われては
いたけれど

今ではすっかり沈静化して

世間の興味なんか
なくなってると思ってた。


「『彼』の未発表作品が
拝める最初で最後の
チャンスなんだもの。

日本なんかより海外の方が
盛り上がってるくらいよ」


チケットの80%以上は
海外からのネットでの
購入だったという。


「世界中から
ヒトが集まってくる」

ジュンジュンは
興奮していた。