私はそっと
あのときと同じように
廊下を振り返ってみる。
そう
この廊下を振り返ったら
あの日そこには
『彼』が立っていて。
目が見えなくなって
いたなんて
知らなかったから
私に気づかないフリを
してるって
すごい悔しかった。
あのとき
『彼』をつかまえて
思いの丈を
ぶちまけていれば
私は今とは違う人生を
歩んでいたのだろうか。
「……」
無言でこんな風に
手をひっぱられて
足早に歩かされると
何だか『彼』との日々を
思い出してしまう。
今日のジュンニイは
どこか口数が少ない。
特に私とあんまり
しゃべってない気がする。
さっきの店から
ここに移動する間も
ジュンニイは
電車の中で監督さん達と
私はジュンジュンと
ばっか話してて。
ずっと手は繋いでいるのに
どこか不自然で。
「……」
私はこの廊下に
たくさんの想い出を
見つけながら
その手を力強く握ってみた。
ジュンニイの足が
初めて止まる。
「…合格発表を見に行く
受験生の気分だよ」
ジュンニイが
力なく微笑んでみせた。
それくらい
余裕がないって
コトなんだよね。
アタマの中は
私に個展がどういう風に
評価されるかと
不安と期待で
いっぱいいっぱいで
何も見えてないんだね。