「いかにも子どもが
描きそうな絵だよなあ」
誰かがそう口にした。
「主題が【産卵】なんだから
母親の胎内のイメージじゃ
ないのか?」
「メルヘンの世界っていうか」
「『彼』の絵の
その色彩の潔さに
世界は熱狂してきたんだが
…これはまた」
「社会を風刺したかのような
シニカルな視線で
ウケてきてただけに
ちょっと意外だね」
みんなが思ったコトを
そのまま口にしていた。
「こんなに回覧者に語らせる
個展もめずらしいな」
監督さんが苦笑いしている。
そんな中
ジュンジュンはただひとり
黙々と
ひとつひとつの絵を
丁寧に観ていっていて。
背中をまるくして
作品を覗き込むその後姿に
私はずっと
目を奪われていた。
「ヒメ」
ジュンニイが私を
そのドーム状の部屋の
真ん中に立たせる。
「何か気づかない?」
「気づくって…」
ジュンニイが
『彼』と私の記憶に
存在する暗号など
知るハズもなかったけれど。
「カメラ目線のモデルなんて
素人にしか描けないよ」
「え?」
怒ってる顔。
泣いている顔。
笑ってる顔。
どれもみんな
こちらを向いていて
今にも
話しかけられそうだった。
「こっちが
気恥ずかしくなるくらい
素直で。ピュアでさ」