嬉しいときは共に喜び

「辛いときは
スケッチブックの中のヒメが
いっしょに泣いて
くれていたんだろうね」


たった1日しか
傍にいなかったオンナノコを


何年も何年も

思い起こしながら
描き綴ってきたのだ。


幼い『彼』の
ココロの支え。


「『彼』はずっとヒメと
いっしょだったんだ」


順路を先に進むと

今度は幾何学模様群が
私達を迎える。


水槽の中に沈む絵。

不思議な
ゆらめきの世界。


鉛筆でデッサンされた
制服姿のリアルな私。

後姿や横顔。

その全てに瞳がなかった。


でも
その首の傾け方やしぐさ
シルエットを見ただけで

ひと目で私だとわかる。


白黒なのに
瞳がないのに

私そのものだった。


「絵の中のヒメは
幸せそうで
楽しそうなんだけど」


どれもまるで
盗み見をしているかのような
構図が切なくて。


「ヒメの横顔を
こっそり見ているだけで

『彼』は充分しあわせ
だったんだろうね」


「……」

何も答えられなかった。


静かだ。

誰も何も語らない。


さっきのブースでの
賑やかさは
どこにいってしまったのか。


水面に揺れる私の絵が
どこか『彼』の心象を
代弁しているようで。

みんなコトバを失っている。


今、ここにいるヒト達は

この絵のモデルが
私だと確信しているに
違いなかった。