「俺もこの仕事で
メシ食ってきましたから」
「…そうね。そうよね」
意地悪言って
ごめんなさいと
アンナさんが涙を拭った。
このヒトも
苦しんでいたんだ。
初めてあったときも
どこか私に意地悪で
あの創りかけの彫刻を
ただひとり絶賛していた。
本当に『彼』を
かわいく思っているのだ。
目が見えなくなって
作品を思うように
創れなくなった『彼』を
傍で見ながら
そんな『彼』の肉体を
貪り続けるパトロンを
どうするコトもできず
ただ時間が経つのを
指をくわえて待つしかない。
苛立つのも当然だった。
「I kept it waiting」
ミスターが
ティーラウンジに姿を現して
「行きましょうか」
アンナさんが立ち上がった。
「ジュンに
逢いたがっているわ」
ミスターが
私の姿に気づいて
ジュンニイを
ドアの外に呼びつける。
彼女も逢わせるのかと
ジュンニイに確認している
ようだった。
やっぱりこんなトコロ
来るべきでは
なかったのだ。
歓迎されてない。
それはたぶん当然で。
今更『彼』に逢って
どんな話を聞いても
何が変わるワケでもなく。
お互いを不愉快に
するだけではないのか。
ジュンニイはミスターと少し
ドアの外で話し込んだ後
「おいで」
私を手招きした。
ジュンジュンが
腰を上げようとしない
私の背中を押す。
「『彼』、喜ぶと思うから」
「……」
婚約者と
いっしょに現れても?