そう言い返したかったけど


真っ赤な目をした
アンナさんに
微笑みかけられて

私はそのコトバを
飲み込むしかなかった。


ミスターに連れられて
ペントハウスの階で
エレベーターを降りる。


部屋の前には

支配人を始め
たくさんのホテルマンが
待機していて

ホテル王のお出ましに
緊張感がみなぎっていた。


一番奥のドアが開いて

ホテルマンが
そっちへ一斉に移動する。


青い眼をした
老人の横顔が

ちらりと

見えた。


「…気色ワル」

ジュンジュンが私の後ろで
吐き捨てる。


「帰ったんじゃなかったの?」


アンナさんがホテルマンを
掴まえて尋問した。


「忘れモノをされたとかで…」

「どうだか。名残惜しかった
だけじゃないの?」


ホテル王の乗った自家用ヘリの
プロペラの音がして


「やっと帰ったか」

ジュンジュンが溜息をつく。


ノックもせずに
ミスターが部屋の中に
入っていった。

アンナさんに促されて
ミスターの後をついていく。

グランドピアノが
ちいさく見えるくらい
広いリビングに

たくさんのバラ。


見たコトもないくらい
おおきな花びらで

その辺の花屋では
とてもじゃないけど
お目にかかれそうには
なかった。


どこもかしこも
ゴージャスすぎて

目が眩みそうになる。

「Please stay…
チョト待ッテテ」

ミスターが
たどたどしい日本語で
私達に話しかけて

奥の部屋に
ひとりで入っていった。