何にもいじらずに
絵だけを見て貰えれば
充分だって。
「俺はアイツをここまで
愛してきたんだぞ。
おまえはどうなんだって」
あの作品を見て
何も感じないようなヤツなら
「別れさせて
やろうと思ってたから」
ジュンニイが
『彼』のセリフに
ちょっと困った顔をみせた。
「それがさ。
蓋を開けてみたら」
自分の作品を
自分の想いを
ここまで
大事にしてくれて。
「俺の作品が
どんなに素晴らしいかを
あの個展は俺に
教えてくれたんだ」
それは
あまりにもストレートな
『彼』の感謝の気持ちだった。
「…それが俺の仕事だから」
カッコつけて
答えてはいるけれど
ジュンニイの胸にも
しっかり伝わっているのは
その表情を見ればわかる。
『彼』にも
見せてあげたいと
ココロの底から思った。
アンナさんが
声を殺して泣いている。
ジュンジュンが
背中をむけて
その肩を震わせていた。
こんな病気になって
描けなくなって
役立たずだと
みんなに見捨てられて
「俺の人生は
抜け殻のように
後は死ぬのを待って
過ごすだけだって
そう考えていたけれど」
まだまだ
創り続けたい。
「生きていく意味を
見つけた気がする」
『彼』は
少し笑ってみせて
その頼りない指が
空に何かを描き出した。
「…次の作品を
みんな待ってるよ」
「ふふん」
ジュンニイのコトバに
初めて『彼』らしい
リアクションを見せる。
「俺さ。
ジュンイチさんみたいな
父さんが欲しかったな」