「いつもひと通り
かわいがったら

自家用機で
すぐ帰っちゃうから

そんなに待たせないと
思うけど」


待たせるとか
待たせないとか

そういう問題じゃないよ。


「…いつから知ってたの?」

「『彼』の制作を
手伝うようになってから」


その老人は
いつも突然現れては

『彼』の前に跪いて
その足にキスを浴びせて。


そんな老人の行為を
『彼』は無視して
作品を創り続ける。


「それがお決まりのパターン」


…パターンって。

「そうやって『彼』に
冷たくされるのが
たまらなく好きみたい」

ジュンジュンは嘲った。

「おまけにさ。

ギャラリーがいる方が
興奮するみたいで

私達スタッフが
席を外そうとすると
怒ったりするの。

ヘンタイジジイよ」


おぞましいと言わんばかりの

それは私が見たコトが
ないような

親友の顔だった。


絵の具やら石膏やら
こぼしたふりして

「『彼』の足をアルコールで
何度も何度も拭いたわよ」


ジュンジュンは笑ってるけど。


「…それって
ジュンニイも知ってるのかな」

「さあ」


パトロンつきの
バイセクシャル。

確かに
私との将来性なんて
微塵もなかった。


でもそれなら
そう教えてくれれば済む話で。

『彼』の私への気持ちなんか
伝えないでいてくれた方が
どれだけ親切で前むきか。


「『彼』に幻滅した?」

カラダを売って
手にしてきた地位なんじゃ
ないかって。


「ヒメもそう思った?」

「…そんなコト」

芸術なんてわからない。

ルノワールは綺麗だと思うけど

ピカソやゴッホなんか
はっきりいって
その良さなんて語れない。


ましてや
『彼』の抽象画の
値打ちなんか…。