「『彼』の絵が
注目されたのも

世界的な
絵画コレクターである
ホテル王が

『彼』の絵を破格値で
買い集めたコトが発端なの」


「…アニキも
知らなかったみたいだね」

「…うん」

アンナさんは
このカンケイが

『彼』が自分の作品に
劣等感を持ち続けている原因に
なっているのだと

持論を展開し続ける。


自分の母親と
同じような手段で
生きている自分。


「生きたお人形さん
みたいなモノよ」


アンナさんのコトバに

キレイに
手入れされていた
盲目のハズの
『彼』の足の爪が

アタマの中に蘇ってきた。


オフホワイトの服も
アクセサリーも

どこか
違和感があったけど



「お人形さん」

そういうコトだったんだ。


「あら、あなた達。

そんなトコロで
何、突っ立ってるの?」


アンナさんに見つかって

「あ、おはようございます」

ふたり
笑顔で取り繕った。


ジュンニイと目が合って

隣りに座れと

ジェスチャーで
指示される。


ジュンニイの隣りに
腰かけて

そっと
そのヒザに触れる。


「遅くなってごめんなさい」


私のセリフに

ジュンニイは
やさしく微笑んで


ヒザの上にある私の手を
しっかり握った。


「…『彼』が見たら
猛烈に
ヤキモチを焼きそうだわ」