「お願いって?」

ジュンニイの目が笑ってない。


「ずうずうしいとは
思いましたが

もうコチラに
おすがりするしかなくて」

目の前でお母さんが
土下座を始める。


「ちょ、ちょっと
アタマを上げてくださいッ」

ジュンニイとふたり
慌てふためく。


「そんなコトされても
出来ないコトは
出来ませんから!」

ジュンニイがお母さんを
立ち上がらせた。


「あのコの個展のチケット
手に入らないでしょうか」


自分の額を自分のヒザに
押しつけるように

アタマをまた下げる。


「…チケット、ですか?」


お母さんの話によると

個展のコトを新聞で知って
チケットを求めたけれど

どこも完売状態で。


ネットオークションで
競り落としてはみたモノの
どれも全部騙された。


「いくらかかっても
構いませんから

お願いします!」


胸ポケットから
茶封筒を取り出すと

ジュンニイに
押しつけるようにして
差し出して


「あのコが
ちいさい頃に描いた絵が
たくさん展示されてるって
聞きました」

自分の息子が
何を見て
どんなコトを考えていたのか

知りたいのだと
お母さんは言った。


「……」

私はジュンニイとふたり
目を見合わせる。


「…お金は要りません。

招待券を手配しましょう。
連絡先を教えてください」

ジュンニイの厚意に


「ありがと…ござ…!」

声にならない。


お母さんは
私達の姿が
エレベーターに乗って
見えなくなるまで

何度も何度も
アタマを下げ続けていた。