「そんなに娘を
追い出したいのかな」


溜息が出る。


「イキオイって大事だよ」

運転するジュンニイの手が
私のふくれっ面をいじった。


「そんな顔しないの」

面白がって笑ってる。



「…ジュンニイこそ
ちゃんと前見て
運転してよね」

「春は何かと忙しいから
披露宴とかは
夏休み以降かな」


「ヒトの話
聞いてないでしょ!」

「ウェディングドレスも
発注しなきゃな〜♪」

「もお!」


どこで仕入れたのか

ベタなウェディングソングが
車のスピーカーから
流れ続けていて

ジュンニイのアタマの中は
バラ色で
いっぱいのようだった。


…新婦より新郎のが
結婚式に夢を
膨らましてるのって

どうなんだろう。


ウェディングソングを
ご機嫌に口ずさんでいる
ダンナさま。

何かひとり
イラついている自分が
バカらしくなってきた。


「夕焼けがキレイ」

「空も俺達のコト
祝福してくれてるんだよ」


キザなセリフに
思わず吹き出してしまう。


「何だよ〜。
笑ってんじゃないぞ〜」

「だって〜」


夕焼けのせいなのか

ガラスに映るふたりの顔は
ほんのり赤く色づいてて

しあわせ色に
染まって見えた。


マンションに行く、のではなく

マンションに帰る。


私の新しい生活が
始まった。