それでも
ジュンジュンにカラダを
起こして貰いながら
「今日は加減がいいんだ」
『彼』がちょっと
笑ってみせる。
私は
そっとベッドの横にあった
椅子に腰をかける。
『彼』は私に気づいて
いないのか。
落ちてきた前髪を
かき上げながら
「濃い桜色がいいな」
ジュンジュンに右手を
差し出して
当たり前のように
色鉛筆を握らせて貰っている。
枕元にあった
スケッチブックを
自分ですんなり手にして
『彼』は
何かを描き始めた。
ジュンジュンとふたり
『彼』の制作活動を
息を殺すようにして
見守ってしまう。
目が見えなくても
手元に
視線を落としているのが
何だか不思議だった。
「紅色」
『彼』の要求に
ジュンジュンは躊躇なく
次の色鉛筆を選んで渡す。
もうすっかり
『彼』の目となり
手になっていた。
何を描いているのか
『彼』はすっかり絵に夢中で。
私達はここに
何をしに来たのか。
その使命を果たせずにいる。
このまま機嫌よく
描き続けさせたいのは
やまやまだったけれど
ジュンジュンが私に
目くばせしてきて
私は黙って頷いた。
ジュンジュンが
ゆっくり深呼吸して
「あのね、実はさ」
お母さんの話を『彼』に
切り出してゆく。
『彼』は絵を描く手を
止めることなく
黙ってジュンジュンの話を
聞いていた。