だけど
「そうなんだ。今観てるんだ」
こちらの決死の思いが
萎えそうになる程
その声のトーンには
母親への愛情は
少しも感じられなくて。
…やはり無理なのか。
無謀なコトだったのか。
気が遠くなるくらい長い間
持ち続けてきた感情を
この短い間に
変えようなんて考えた
私達の方が
愚かだったのか。
ジュンジュンが
母親の現在の生活を
話し出しても
「そう」
『彼』はシラケタ顔で
受け流すばかりで。
ジュンジュンが私に
何か話せと合図する。
だけど私は
この部屋に入るときに
『彼』に声を掛け損なっていて
どのタイミングで
どういう風に『彼』に
話しかければいいか
わからなかった。
ジュンジュンから
目をそらし
私はうつむいてしまう。
『彼』を説得する為の
材料は全て出しつくして
しまっていた。
だけど私達には時間もない。
「やっぱりお母さんには
逢いたくないよね。
逢ってはくれないよね」
焦れたジュンジュンが
ストレートに『彼』に
嘆願する。
『彼』は
描いている手を止めて
「…逢ってもいいよ」
そう答えた。
「えええええええッ!!?」
思わずジュンジュンと
ハモってしまった。
だけど『彼』は
気に留める様子もなく…。
「…逢ってくれるの?」
ジュンジュンの頬が
みるみる紅潮していく。
「ヒトを許し
受け入れるコトが
どんなに
ヒトのココロを救うのか
身にしみて知ってるから」
『彼』は私のいる方向に
描いている絵を向けた。