『彼』が手にしている
スケッチブック。
そこには
たどたどしい線で
赤ちゃんを抱く
お母さんの姿が
やわらかなピンクの色で
あたたかく
描かれていた。
「今度はたぶん
俺が誰かを許す番なんだ」
『彼』の手が
こっちに伸びてきて
私は
声を上げそうになる。
今カラダを動かしたら
気配を気づかれてしまう。
私は身を潜めて
『彼』の手が
何を探しているのかと
必死でレーダーを働かせた。
「…どうかしたの?」
ジュンジュンが
『彼』に話し掛ける。
「いるんだろ?」
え?
「そこに座ってるんだろ」
頼りない『彼』の手が
さらに伸びてきて
私の髪に触れると
「ほら、やっぱり」
イタズラっ子のように
自慢げにして
そのままバランスを崩して
ベッドから落ちそうになる。
「危ない!」
反射的に私は『彼』のカラダを
抱きとめていた。
『彼』はそのまま
私のカラダを掴んで
抱きしめたのか
抱きついているのか
判別できないくらい
弱々しいチカラで
頼りなくって
涙が出た。
「…お母さん連れてくるね!」
ジュンジュンが立ち上がる。
「私が迎えに行くよ!」
「いいから!
ヒメは傍にいてあげてッ!!」
あ…。
「…すぐだから、ね!」
ジュンジュンは
怒鳴り声を
笑顔で誤魔化して
私を『彼』の元に
残していった。
そんな…。