だって、私
あなたに笑顔なんか
見せたコトなかったよね。
なのに
『彼』は無邪気に笑ってる。
「…そんなに笑わなくても
いいじゃない!」
「だってさ」
子どものように笑う
『彼』につられて
私まで思わず笑ってしまった。
「そう、この顔だ」
その指が私の輪郭を
愛おしげになぞっていく。
目、眉、鼻、頬。
そしてその指が
私の唇に戻ってきて
『彼』はその指を
自分の唇にそっと運ぶ。
「間接キスだね」
また笑った。
小学生じゃあるまいし
何度もカラダを重ねた
カンケイのくせに
「バカ…」
何故か
ドキドキが止まらない。
こんなのは
キスのうちには入らない。
でも
『彼』と交わした
どんなキスよりも
胸が高鳴っている。
『彼』の指が
再び私の唇を捉え
私の顔を
ひと通り確認しながら
私の涙の跡を
『彼』は自分の掌で
拭いていく。
なのに
拭かれても
拭かれても
私の涙は乾くコトがなく
ただ『彼』の枯れた腕を
伝っていった。
「…キリがないな」
ぱふん。
羽根布団が音を立てて
その手が力なく落下する。
「…少し眠りたい」
「ダメ!!!!!!!」
思わずおおきな声を
出してしまっていた。