『彼』のどこに
こんな力が残っていたのか。


『彼』の暗い瞳に
私が映っていて

そのまま『彼』は
私を引き寄せ

抱きしめてくる。


冷たい指先とは反対に

その頬は激しい熱を
帯びていて


私の下で
荒く呼吸する『彼』は


必死で私に何かを
伝えようとしている。


「何? 何て言ってるの?」

『彼』の唇の動きが
止まって

私の背中を
握りしめていた手が

シーツの上に滑り落ちた。


私が何を話しかけても
答えようともせずに


ただ胸を
おおきく動かして

息をしようとしている。


「ヤ…!!!!!」


私は『彼』を置いて
部屋を飛び出し

ドクターを呼びに走った。


カチャカチャカチャカチャ!!

エレベーターが
なかなか上がってこない。

1秒が1時間にも感じる。

ボタンをひたすら連打して

ドガン!!

「何、コレええええ!!!!」

エレベーターにあたりまくる。


「特別階専用の
エレベーターじゃ
なかったのッ!?

誰が使ってるのよ
おおおおおお!!!」


神様…!!


もう私には

哀しいくらい
冷静さは残ってはいなかった。