「前に来たときも
そうじゃないかなあって
みんなで話してたんだけど。
一般のお客さんや
取材にきてるヒトに
見つけられると
騒ぎになっちゃうからね」
「…はい」
自分の立場を知った。
警備室の廊下を
重い足取りで歩く私を見て
「下むいてコソコソしてると
挙動不審さで
かえって目立つよ」
ジュンジュンが笑う。
「そうだね」
私は深呼吸をひとつして
モデルのように
背筋をぴんと伸ばした。
「堂々としてれば
いいんだよね」
「いや。それはやりすぎかと」
ジュンジュンと大ウケする。
やっぱりジュンジュンに
ついてきて貰って正解だった。
サクラの樹の下
関係者受付が
見渡せる場所で
ふたりでお母さんを待った。
ジュンジュンが関係者受付で
貰ってきてくれた
『彼』の個展のパンフレット。
顔を隠すようにして
ページをめくる。
「私。このヒメの絵、好き」
ジュンジュンが
私の肩越しに
覗きこんできて
「これってたぶん
海老フライのコトで
お弁当持って大騒ぎしてた
ヒメの姿だよね」
「え? そうなの?」
「私もこのとき
ヒメってかわいいなって
凄く思ったし。
『彼』がヒメのコト
教室の端から見てたの
よく印象に残ってる」
「……」
何て答えればいいか
わからなかった。
「あ、いい風」
ジュンジュンが話題を変える。
「大学の入学式来週だね」
「何の用意もしてないや」
「アニキに服くらい
おねだりすればいいのに」
自分の入学式でもあるのに
ジュンジュンは
どこか他人事で。
「ジュンジュンこそ
チア部、どうするの?
他の新入学生はもう部活に
参加してるんでしょ?」
「…先のコトはわかんないよ」
サクラの花びらが風に吹かれて
はらはらと
舞い落ちた。