「あ、お母さんだ!」

「え? どこ?」

ジュンジュンが身を乗り出して
関係者受付の辺りを凝視する。


「ほら、黒のスーツに
白ブラウスの」

「ウッソお!?」


ジュンジュンが私を置いて
関係者受付に走っていく。


「ちゃんと電話でも
話しといたんだけどな」


どうやら
お母さんの変わり様は
ジュンジュンの想像を
遥かに超えていたらしく。


『彼』もこんなお母さんを
知ったら

少しは考え直してくれるかも
しれないなんて


甘い考えが
アタマをよぎった。


目が見えない『彼』に
どう伝えればいいんだろう。

百聞は一見にしかず。


このお母さんを
まんま見せるコトが
できたなら

全てが上手くいく気がする。


…歯がゆかった。


お母さんの

誠意を

気持ちを


『彼』に伝えたい。


伝えなきゃならないのに。


「もし私が説得に
失敗しちゃったら…」


そのプレッシャーに
身震いする。


「なあ、アンタ『彼』の
作品のモデルのコだよな?」

「え?」

振り向くと背後には

目深にニット帽を被って
マスクをしたオトコ。


むんずと
腕を掴まれた!


「!!!!!」


叫び声を上げようとして
口を塞がれ

引きずられるようにして

建物の死角に
連れ込まれる。


自分の身に
何が起こったのか

全くわからなかった。


「い…やッ!」


誰か…!!!!!


「しー! しー! しー!」

静かにしてくれと
オトコはマスクを取る。


その見覚えのある顔に
私は息を飲んだ。


「『彼』の撮影クルーの…!」