「覚えててくれたんだ」

忘れるワケがない。

このオトコが
ビデオテープを
テレビ局に
横流しなんかしたせいで

私は

私達は…!!


「あのときはさ。
悪かったよ」


そのオトコの意外なセリフに
私は身を固くした。


「あの彫刻が
まさかあんな風に
仕上がってくるなんてさ。

思いもよらなかったから」


オトコは私の腕を強く
掴んだまま離そうとはしない。


「ファンなんて言っておいて
『彼』の才能を
みくびっていたよ。

もう恥ずかしくって
死んでしまいたいくらいだ!」


何が言いたいんだろう。


掴まれた腕が痛い。


「なあ!
『彼』に謝りたいんだ!
何とか逢わせて貰えないか?」


強い力で私のカカトが
地面から浮かび上がった。


「頼むよ」
「や…!!」

怖い…!!!!!!!


「ヒメから
手を離しなさいッ!!」


「ジュンジュン!」


バコッ!

「!!!!!!!!」


ジュンジュンの蹴りが
後ろからオトコの股間を捉え


「こっちへ!」

『彼』のお母さんが
私を抱き寄せる。


オトコは悶絶して

その場に崩れ落ちるように
うずくまって


息も絶え絶えに
泣きだした。


「あれ? アンタ…」

そのオトコが誰なのか
ジュンジュンも気がついた。

「わ、悪かったよ。
反省してる。

俺の早とちりで
『彼』の名誉を傷つけて…」


「…『彼』の作品を
認めるんだ?」


ジュンジュンが
そのオトコを見下ろした。


「認めるなんて
おこがましい!

『彼』は俺にとっての
神だああああああ!」


そう叫んで

オトコはその場に
ひれ伏してみせる。


「…行こ」

ジュンジュンが
私とお母さんの腕をひっぱって

その場を立ち去った。