「いいの?」

「いい薬よ」


私はこっそり振り返って
そのオトコを見る。

自分に酔ってるのか
本当に後悔をしているのか

私にはわからなかったけど。


「『彼』は
あのオトコのコトなんか
もうとっくに
忘れてるんだからさ。

許すも許さないもないよ」


ジュンジュンが言い切った。


「…あの子はこうだと思ったら

貫き通さずには
いられないから。


一度憎いと思ってしまったら
生涯許すコトはないでしょう」


お母さんは
サクラの樹を見上げる。


「……」

私もジュンジュンも
かけるコトバを失っていた。


本当に
『彼』にお母さんを
許させるコトなんて
できるのか。


きっと私達が知らない
親子の確執は

もっともっと
たくさんあって。


なのに

何も知らない第三者が
『彼』に
許しを迫るなんて


見当違いの
残酷な仕打ちでは
ないのか。


こんな揺れた気持ちのまま

説得なんて
本当に
私に出来るのだろうか。


「後で迎えに来ますから

ゆっくり観ていって
くださいね」


勝手に帰って
しまわないようにと

何度も何度も念を押して

お母さんの後姿を見送った。


「入場制限
他のヒトは2時間待ちだって」

「…凄いね」


道のむこうまで続く長い列。


ジュンジュンも
会場から出てくるヒト達の
表情を見て

個展の手ごたえを
感じているようだった。


「『彼』に
見せてあげたいね」

「…うん」


本当に。


サクラの花吹雪の中

ふたり歩きだした。