この奇跡のような出来事に
これは『彼』の記憶ではなく
「お腹の中にいたときに
ヒメの目を通して見た
個展の絵の
単なる記憶じゃないの?」
現実派のユッキは
電話口でそう笑った。
手先が器用なのは
美大出のジュンニイの血を
引いているからで
確かに不思議でも何でも
なかったけれど。
でも
「キレイなウンコ」の絵は
個展の中には当然なかったし
この子に教えられるまで
すっかり
忘れていたコトだった。
でもユッキにその話をしても
きっと何か
否定される材料を
並べられる気がして
私はコトバを飲み込んだ。
奇跡なんだと
生まれ変わりなんだと
信じたいから…。
ジュンニイのヒザの上で
絵本を読んで貰っている
娘を見つめながら
「覚えてるのは
『彼』の幼いときの
記憶だけなのかな」
ふと
そんな疑問が湧いた。
この子には
『彼』が私を
抱いていた記憶とか
彫刻を創っていた記憶とか
お母さんがオトコと
抱き合っていた記憶とか
そういうモノは
残っては
いないのだろうか。
「俺だとわかるように
神様にシルシを
残して貰うから」
娘の中にある記憶の断片は
ただのシルシにすぎなくて
いつかは消えてなくなって
しまうのだろうか。
あれ?
変なの。
『彼』が言っていたコトバを
驚くぐらい
私は覚えているのに
私は『彼』の声を
思い出せなくなっている。
「アイツの記憶力のなさは
身にしみて知ってる」