『彼』のお母さんは
『彼』の遺産を継いで
アメリカで暮らしている。
『彼』が死んだときに
お世話になった教会で
障がい児のボランティアとして
汗を流しているらしい。
遺産のほとんどは
アメリカでの慈善活動に
使っていて
「まるで罪滅ぼしみたいに
ひたむきに働いてるよ」
ジュンジュンがときどき
報告してくれていた。
『彼』が最期に描いた絵も
聖母子図として
この教会に寄贈されていた。
スケッチブックには
他にもたくさんの
聖母と赤ちゃんの絵が
遺されていたのだけれど
聖母のモデルは
私だったのか
お母さんだったのか
今となっては
知る由もない。
だけど
そこに描かれた赤ちゃんは
まぎれもなく『彼』自身で
『彼』の願望だった。
オトナが真面目な話を
している横で
我関せずといった態度で
娘はジュンジュンの
お土産の
チョコレートケーキを
食べている。
「チョコもおいしそうだね。
ひとくちちょうだい」
「ダメッ!」
娘に拒絶されて
ジュンジュンが
ちょっぴり落ち込んだ。
「このコ結構ワガママで
気ままな性格だから」
本当に誰に似たのやら。
ヒトの顔色ばかり
見てしまう私と
気配りのヒトである
ジュンニイ。
どちらにも似ていない。
「ジュナにはコレをやるぞ!」
チョコケーキの銀紙を
キレイに舐めて
ジュンジュンに渡す。
「そういうコトしないの!」
私に叱られて
むくれっ面だ。
本人はよかれと思って
やってるコトが
周りにはなかなか
伝わらないタイプで
お友達とも
いつもこの調子で
トラブルばっかり起こしてる。