私のフルネームが
パパの字で書かれている

小学生のとき買って貰った
チョークの箱。


いつのまにか
なくしたんだと
思っていたけれど。


「どうしてジュンジュンが?」


「『彼』が
ずっと持ってたんだ」


あの行方不明騒動の日から

『彼』は私のこの箱を
大切に持ち続けていて。


父親の実家に
引き取られたときも

施設に
入れられたときも

ホテル王の元での生活を
強要されたときも

この箱と
スケッチブックだけは
手放さなかったという。


「ヒメの子どもが
幼稚園にあがる年齢になったら
子どもに渡してくれって」


『彼』の最期の頼みだった。


「その子は絶対
俺の生まれ変わりだから」


ジュンジュンが
箱からチョークを1本
選び出した。


「…生まれ変わりなんて
あるワケないのにさ。

バカだよね」


自嘲しながら
黒板に絵を描き出した。


「ジュナへったくそ〜」

3歳児にバカにされ

ジュンジュンが
嬉しそうにしている。


「ほら何か描いてみせて」

ジュンジュンに
すすめられて

娘が
チョークを手にした。