チョークの描き心地を
楽しむように
娘はただひたすら
線を重ねている。
「何か絵でも描いてよ〜」
ジュンジュンが
苦笑いしながら
溜息をついた。
「まだ3歳だもの」
もしかして
『彼』のように
スゴイ絵を
描き出してくれたら
なんて
期待をしてしまっていたのは
私とて同じだった。
ジュンジュンは
娘が破り散らかした
包み紙のシワを丁寧に伸ばして
正方形に切り分け始める。
「…何か『彼』が
折り鶴折ってたの思い出すね」
「そう…だね」
今のこの場面には
ふさわしくない
話題だったんだろうか。
ジュンジュンが珍しく
黙ってしまった。
「…紅茶のお代わり淹れるね」
「ヒメ」
ジュンジュンの
マジなトーンの
呼びかけに
ちょっと身構える。
「『彼』を許してくれて
本当にありがとうね」
そう言いながら
折り紙を作り続ける
その横顔は
まるで
無垢な少女のようであり
母のような
何とも例え難い
柔和な表情で。
今も忘れられない。
「今日は疲れちゃったから。
そろそろ帰るワ」
「もう遅いから
泊まっていけば?」
「…ヒメのお手製の
和食も堪能したし。
渡すモノは渡したし」
ジュンジュンは
チョークの描き心地を
夢中になって楽しんでる
娘のアタマを撫でて
「もう思い残すコトはないよ」
私に背中をむけた。
それは奇妙な言い回しで
私のココロに
凄くひっかかるモノだった。