「わかったから!

お腹の赤ちゃんが
びっくりするから
引っ張らないで」


娘は私の顔をじっと見て


お腹の赤ちゃんに

「ごめん、ごめん」


両手でやさしく撫でながら
謝っている。


私にはめったなコトでは
謝ったりはしないのに

お腹の赤ちゃんには
とても素直でやさしい。


「生まれてくる赤ちゃんも
大好きだけど

パパの”1番好き”は
これからもず〜っと
おまえだから」


だけど
赤ちゃんも2番目なんて
かわいそうだから

「おまえの”1番好き”は
赤ちゃんにしてやろうな」


ジュンニイが

そう洗脳している
せいなのか。


私は
ひとりっこだったから

兄妹なんて未知の世界で

そういう気配りが
どれくらい必要なモノなのか
わからないけれど

この子が
自分の弟か妹かが
生まれてくるのを
楽しみにしていて
くれるコトが

すごく頼もしかった。

娘に促されて
黒板の傍に移動する。


黒板は白と黄色と
オレンジの曲線で
埋め尽くされていて

思わず苦笑した。


「黒板消しで消すと
何度でも描けるのよ」


黒板をリセットしようとして
娘に怒られる。


一度機嫌を損ねると
頑として譲らないのは

誰に似たのか。


寝る時間になっても
部屋の隅っこで
まるくなって

こっちを睨みつけている。


「ほら、いっしょに寝よう」


機嫌を取ろうとしても

パパのマクラを抱きしめて
背中をむけたままで。

強引に電気を消すと

「いやあああ〜!!!!」

やっと私の布団の中に
潜り込んできた。



暗闇を
異常に恐がるのは

幼い頃の『彼』と
いっしょだった。


再会した『彼』は

暗闇を
恐がらなくなって
いたけれど

でもそれは
これから迎えるであろう
暗黒の世界に慣れる為の

必死の努力の成果
だったのかなあ。

なんて。


最近になって

ようやく
冷静に『彼』のコトを
振り返られるように
なってきた。