エピソード004
朝のホームルーム前の点呼は
日直の仕事だった。
夏休みが終わったというのに
『彼』は未だ
学校に現われるコトもなく
出席簿は『彼』の欄だけ
バツ印が繋がっている。
でも
『彼』の長すぎる夏休みを
気に留めるヒトもなく。
『彼』のいない教室に
違和感を覚えてるのは
たぶん私くらいで。
私をひどいふり方で
捨てたオトコ。
顔を合わせずに済んでるのは
幸運なコトなのかも
しれなかった。
「来週のリコーダーのテストは
出席順で男女ペアを組んで
演奏して貰うから」
先生も『彼』の名前を
当たり前のように
飛ばしていっていて。
「何か退学届出したってウワサ
本当だったみたいだね」
ユッキが耳打ちしてくる。
もう二度と
顔を合わせるコトも
ないんだろうな。
そう思ったら
何故だか
胸がきゅんとした。
「ヒメ、アンタ何
音楽ノートに
落書きしてんのよ」
ユッキの声に
ハッとする。
「ほら、課題曲のページ」
それはあの日
『彼』が描いた
卑猥な女体の絵。
「ヒメ、もしかして
欲求不満?」
「違うよ!
この前、ここに忘れてったら
誰かに落書き
されちゃってて!」
必死で誤魔化した。
「気持ち悪〜い。
そのページ捨てちゃいなよ」
「あ…!」
課題曲のページは
自分の楽譜を
コピーしてあげるからと
ユッキは
その絵のページを破って
紙ヒコーキにして
音楽室の窓から
勢いよく飛ばす。
その絵は
風に乗って
ぐんぐん
私から離れていって。
「あ…あ」
溜息ともつかない声が
思わず漏れた。
『彼』がここに存在した証。
あの落書きを見る度に
いっしょに過ごした日々は
夢なんかじゃなく
実在したんだって実感できた。
中庭の池の中。
キラキラと
陽にあたりながら
『彼』が残したリアルまでもが
あっさりと
私の前から
姿を消していく。
エピソード004
≪〜完〜≫
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