その獣の瞳を持った『彼』が
その日、同じ教室で
授業を受けていたなんて
気づきもせず
私はふたりの親友に
電車での出来事を話していて。
「その男子生徒が
痴漢だったりして〜」
私の落ち込みをよそに
大盛り上がりしてる
親友達の姿は
『彼』の目にどんな風に
映っていたのだろう。
「その男子って
どんな顔してた?」
「顔って言われても…」
あのキツイ眼差しだけが
強く印象に残ってて
どんな顔だったかも
うる覚えで。
「髪型は?
短かかった?
それとも長め?」
「どうだったっけ…」
「何か特徴とかって
なかったの?」
「う〜ん」
「背は?」
「ふつう、かな」
「太ってた?」
「ふつう、かな」
見事なくらい
印象に残らない
オトコノコで。
「恩人かもしんないのに
同じ学校なら
どっかであったりしたら
相手に恥かかすんじゃ
ないの?」
ユッキが大声で
カラカラ笑う。
それはそうなんだけど。
恩知らずだって思われたんなら
それはそれで
仕方がないコトで。
むしろ私は
その男子が言っていた
「…覚えて…ない?」
というコトバの方が
引っかかっていて。