以前どこかで
あったコトあったっけ?
思い出そうにも
その本人の顔すら
覚えてないのだから
どうしようもないといえば
それまでなのだが。
あの男子は
覚えてるのが当然だと
言わんばかりで。
私が覚えていないコトを
責めるように睨んでいて。
何か大切なコトを
私は忘れていて
思いださなければ
いけないんだって
自分を追い詰めれば
追い詰めるほど
プレッシャーで
アタマが白紙になっていく。
「あのさ〜。
さっきからあの男子
こっちを睨んでるんだけど」
ユッキのセリフに
そっと振り返る。
実は私もずっと誰かの視線を
感じてはいた。
その視線の主は
私に振り返られて
無言で教室を出ていって。
「何じゃ、ありゃ」
ちょっと気持ち悪かった。
そのとき
その視線の主が
駅でそうだったように
前髪を後ろに流していたら
ニブい私でも
同一人物だって
きっと気づいたと思う。
ヒトの視線を避けるように
『彼』は前髪で
顔のほとんどを隠していて
背格好だって
至近距離で見るのと
遠巻きでは
印象が違っていたから。
『彼』に対して
わざと知らんぷりを
してたワケでもなく
ましてや痴漢だなんて
疑っていたワケでも
なかったんだけど。
結果的には
『彼』を深く傷つけて
いたんだなんて
思い知らされたのは
2年も経ってからで。
後悔しても遅すぎたのだけど。