翌朝。
ユッキとジュンジュンが
痴漢にあったのと
同じ時刻の同じ電両に
乗り込んできて。
「もうこの電車には
乗りたくなかったのに〜」
私の訴えなどどこ吹く風で
「犯人捕まえたくないの?」
なんて。
自分達は私から少し離れて
こっちの様子を
楽しそうに窺っている。
「犯人なんか
どうでもいいのに〜」
痴漢逮捕の囮にされる気分は
最悪で。
これって
ハイエナの中に獲物を
入れるようなモノだ。
だいたい、ただでさえ
ラッシュなんだから
関係ない乗客が
ふたりも増えたりして
皆の迷惑だっつ〜の。
痴漢だって
昨日の今日で
そうそう現れるハズが…って。
甘いコトを考えてたのは
私の方で。
私のスカートがまた
同じパターンで
引っ張られたかと思ったら
今度はいきなり
下着の中に
手が入ってきた!
「うぎゃあああああああ」
叫び声をあげたのは
痴漢の方で。
反射的に私は
その手に爪を立てて
しまっていて
「つけヅメの効果は
抜群だったでしょ?」
ユッキが自慢げに
遠くから声をかけてくる。
犯人はあっけなく
周りのビジネスマンに
取り押さえられて。
痴漢騒動は
一件落着したのだけれど。
「やっぱりあのヒト
あのとき私のコト
痴漢から
助けてくれてたんだ」
そう確信して
それらしき姿を探したけれど
どこにもなくて。
翌日も、翌々日も
懲りもせず
満員電車に乗ってみたけれど
結局、見つけるコトが出来ずに
あきらめた。