掴まれた手首の痛さと
あの激しい瞳は
私のココロの中に
今も深く刻まれている。
相変わらず
誰かの強い視線を感じては
振り返っていると
親友で幼なじみでもある
ジュンジュンが
「ヒメってさ。
ファーストキスの相手
とかって覚えてる?」
マジな顔で私に尋ねてきた。
「な、何? 急に…」
「いや、別に…、なんとなく」
「オコチャマののヒメに
キスなんて経験あるワケ
ないでしょ〜」
ユッキが隣りで大笑いしてて。
そりゃ、ま。
…その通りなんだけど。
なんか悔しかったから。
「そのうち
カッコイイ彼氏つくって
ファーストキスどころか
イッキに大逆転して
やるんだから!!!!!!」
思わず大声で
タンカをきってしまった。
私の意気込みに
教室中が爆笑して
悪目立ちしてしまったコトを
後悔する。
「ヒメはホントに
和ませてくれるよね〜」
ユッキが私のアタマを
ぽんぽん叩いて
涙して笑ってて。
爆笑の渦の中
笑わなかったヒトが
ふたりいたコトに
私は気づかずにいた。
「…覚えて…ない?」
「ファーストキスの相手
とかって覚えてる?」
そのふたつの
問いかけは
同じコトを指していたなんて。
どこまでも
鈍感だった私を
運命が嘲笑ったとしても
それは当然のコト
だったのかもしれない。
あのときの男子が
実は自分だったなんて
『彼』は最期まで
口にするコトは
なかったけれど。