つきあっていたのは
たった数ヵ月の
短い間だったけど
毎日、会話らしい会話を
するコトもなく
ただひたすら
欲望のまま抱き合っていた
ふたりだったけど
「ヒメのコト
何とも言えないような
優しい瞳で見てるね」
この瞳にもっと早く
気づいてたなら
私達のカンケイもおおきく
変わっていたのかも
しれなかったね。
「…『彼』の病状とか
ジュンニイはミスターから
きいてるの?」
「ん。特に何も」
「そっか…」
不治の病と闘っている『彼』。
ジュンニイの仕事仲間の元で
保護されていた。
「ただ、また
絵をスケッチブックに
描きだしてるみたいだよ」
「うそ」
「手であたりをつけながら
なかなか器用に
描いてるらしい」
どうしてその話を
教えてくれなかったのって
ホントはジュンニイを
責めたかったけど
『彼』の様子なんか
いちいち聞かされてたら
動揺ばっかりしてしまう
自分だってわかってた。
ジュンニイはオトナで
常にタイミングを
見計らいながら
私に必要な情報を
必要な分だけ与えてくれる。
けど。
事後報告みたいなのって
やっぱり私のコトを
気遣ってくれてるようでいて
子ども扱いしてるんだって
ちょっと落ち込む。
「ミスターがさ。
『彼』は写真が嫌いで
ほとんどまともなのが
ないっていってたんだけど」
「創作活動中の『彼』を映した
ビデオがたくさんあるんじゃ
なかったっけ?」
「ビデオ回してるときは
ずっと目隠ししてたらしいから」
…そうだった。
「私、『彼』と
ケータイで写真
撮ったコトもないし」
そんなふつうのカップルが
しそうなコトなんて
ふたりでしたコトなかったし。
「そっか」
もしかしてジュンニイは
『彼』の写真を探そうとして
私の荷物の整理を
手伝ってくれてたのかな。
「…写真の準備がいるほど
『彼』の容体、よくないんだ」
私が漏らしたコトバに
ジュンニイは複雑な顔をみせて
「『彼』の写真を
欲しがってるのは
『彼』のお母さんなんだ」
さらりと答えた。