情欲の果てに
「もしもし?」
「あッ、はい…う、んッ」
その手から逃げようと
すればする程
『彼』は執拗に
私の唇を求めてきて。
「お客さま?」
「はいいいいい!!!!」
「…ご注文を繰り返します」
「繰り返さなくて
いいですッ!!!」
たまらず電話を切って
しまった。
「もお!
いい加減にして!」
私が振り下ろした手が
『彼』の顔にモロに
当たって
「…う」
『彼』が顔面をゆがめた。
「ご、ごめんなさい!」
このヒトといると
何故だかいつも自分が
加害者になってしまって
いるような気がする。
こんなトロい私の動きに
対応できないなんて
『彼』も『彼』だと
ココロの中で思って
しまったのも事実で。
顔を覆っていた『彼』の手を
どけて
「どこも赤くなってないと
思うんだけど」
傍にあったライトを
点けようとした。
「…ちょっと驚いただけ」
『彼』は私の手を止める。
私はこのとき
病気のせいで
『彼』が距離感を掴むのに
苦労していたなんて
想像もしていなかったから
「大袈裟なんだから!」
そんな『彼』を
突き放してしまった。
「……」
沈黙が続く。
ベッドの上
裸のふたり。
これ以上の気まずさも
そうはなかった。