『彼』の手を取って
おにぎりを強引に掴ませて

無理矢理口におにぎりを
押し込んでやる。


そこで初めて
『彼』が驚いた顔をして


「生きてたんだ」

ちょっとホッとした。


『彼』は手に持たされていた
おにぎりを
ベッドの上に転がすように
捨て置いて

窓辺にむかって
歩きだした。


部屋の奥の
ごっついカーテンを開けて

『彼』はベランダに出る。


都会の夕景を見下ろして

ここが最上階の
ペントハウスなんだって
初めて実感した。


「ちょっと、何か着てから
ベランダに出た方がいいよ!」

私はとりあえず
クローゼットの中から
ガウンを出してきて

『彼』の肩に着せかける。


はだけた前をちゃんと止めて

何で私が
こんな召使いみたいなコト
やってるんだろうって

アタマが冷静になって。


それでも
無表情な『彼』は
何事もなかったように
自分の頬についている
ご飯粒を鳩にやり始めた。

ふつうのヒトがやってたら
間抜けな様子も

このヒトがやると
絵になるから不思議だった。


それにしても

「突っつかれてるけど
痛くないの?」

「……」


「鳩ってこんな高層階まで
飛んでこれるモノなんだね」

「…おびき寄せたんだよ。
下の階から上へ上へと、さ」

「え?」


「こんな些細な餌に
つられてやってきてさ。
ホテルマンにみつかったら
駆除されるだけなのに
バカだよな」

「!!!」


このときは

残酷な結果になるかも
しれないって
わかってるくせに

気まぐれで餌なんかやって

何て無責任なヤツだと
あきれたけど。