『彼』が亡くなった後

ミスターから『彼』の
アメリカ時代の話をきいて
初めてその行為の真意を
私は知るコトと
なったのだけど。


『彼』はローティーンの頃

ワケあって
アメリカの施設に
入れられていて


そのとき
絵の才能を認められて

画商をしていたミスターと
出会った。


『彼』が収容されていた
施設には古い塔があって

施設内で問題を起こす度
反省を促す為に
その塔にひとり
幼い『彼』は
何日も隔離されていて。


毎日、窓辺にやってくる
鳩達にパン屑をやって
餌付けしては

『彼』は孤独を
癒していたという。


英語もまだ
自分の気持ちを伝えられる程
上手くもなく

いつもオトナ達を
睨みつけては殴られていて。


コトバが通じなくても
ココロを開くコトができる

生命のぬくもりを
感じるコトが
できる相手だった。


施設の中でも
扱いづらい子どもだと
厄介モノ扱いで。


そのくせミスターが
『彼』を引き取りたいと
申し出ると

高額な寄付を要求してきて。


厄介モノではあったけど
『彼』の絵の才能には
金の匂いがしたのか


「絵の才能もそうだったけど
この環境じゃ
『彼』自身が潰されてしまう」


一日も早く
『彼』を救いだしたいと
ミスターは焦ってしまって

当時から有名な
絵画コレクターだった
ホテル王に協力を打診
するコトになったのだが


「まさかホテル王の興味が
『彼』の絵ではなく
『彼』自身にむけられて
いたなんて
思いもしなかったから」


ミスターはホテル王に
『彼』の絵の才能を
アピールしたコトを

今でも強く悔やんでいる。