このオトコが
私の部屋に押し入ってから
もう1時間は経ったと思う。


私をナイフで威嚇しながら
ひたすらテレビのチャンネルを
変えては

オトコはイラついていた。


「テレビ番組ガイドなら
テーブルの下にあるけど…」

「……」


ナイフでページをめくる
行為がとっても
恐いんですけど〜〜〜〜。


でもその手が
今話題のドラマの広告で
止まって

主演女優を
じっと見つめているのに
気がついて


「そのドラマ
おもしろいよね?」


思わず声をかけてしまった。


「先週いいトコで
終わっちゃったから。

主人公はその写真みたいに
花嫁姿になれるのか
続きがすごく気になってて」


「…おまえ
自分が今置かれてる立場
わかってるのか?」

冷たく低い声が
私を威嚇する。


「…はい」

少年Aはチャンネルを
ニュース番組にあわせると

食い入るように
画面を見つめていた。


何か物音どころか
生唾を飲み込む音すらも
立ててはいけないんだって
雰囲気になってしまってて

やたらに喉が渇く。


自分がしでかした事件が
どんな風に報道されてるのか
気になっているのだろうか。


でも。

どんな罪を犯して
逃げ回ってるんだろう。


殺人、とかじゃないよね?


ナイフはピカピカで
血とかついてないし。

返り血を浴びている
様子もない。


じゃ、ナイフを
持ってるってコトは
コンビニ強盗?

でも、そのわりに
手ぶらみたいだし。


「…もしかして失敗して
逃げ回ってるとか?」


思わず口をついて出た
希望的観測に

少年Aが反応する。


「…おまえ、俺のコト
バカにしてるのか?」

キレイな顔で睨まれて
心臓が飛び出るかと思った。