「…わかんねえ。

俺が殺ったとも
殺ってないとも
言いきれねえし…!」

「でも花瓶なんか
知らないんでしょう?」

「……」


「その証言をした
バーテンって
信用できる人間なの!?」


「…金がないって
困ってた俺に
このスナックのバイト口を
紹介してくれたのも
そのヒトだったし」

「どういう関係?」

「いろんな店を回ってとき
むこうから声をかけて
きてくれたんだよ」


初対面のヒトの
紹介って。

「その店、思いっきり
怪しいじゃないの!!!」


「…そうかも
しれなかったけど」


お金がどうしても
必要だったんだって。

ジャケットの
ポケットから
定期券をとりだして

少年Aは
一枚の古い写真を
私に見せてきた。


「…お姉さん、じゃないよね?」

「母さんの結婚式のときの写真」


「この首につけてる
真珠のネックレス。

母さんの形見でさ」


お姉さんが大切に
していたのだけど


「高校の学費が足りなくて
アネキのヤツ
俺に内緒で
売っ払っちまっててさ」


アネキの結婚式が
近づいたとき
初めてその事実を知って

「慌てて質屋から
買い戻したよ」


そのお金を
立て替えてくれたのが
スナックのママで。

「未成年にしかも
前借りなんかさせてくれる
バイト先なんてなかったから」


その真珠のネックレスは
母の形見だからと
お姉さんの婚約者に預けて。


「明日の今頃はアネキ
びっくりしてると思うよ」


すんごいバカなヤツだと
思った。

だけど

呆れるくらい、まっすぐで。


恩義に篤いヒトなんだって
身にしみた。


「…はやく結婚式が
始まるといいね」