「ほら、ジャガイモの皮くらい
剥けるだろ」
って
私に包丁を持たせる。
「いいか、妙なマネしたら
すぐぶっ殺すからな」
私の首元で
果物ナイフが光った。
「……」
こんなに緊張しながら
ジャガイモの皮を剥くのは
初めてだ。
「おまえ、ちゃんと
ジャガイモの芽とれよ!」
「皮を厚く剥きすぎだ!」
「水にさらして灰汁抜き
するのも知らないのか!」
…って。
小舅ばりの細かい指摘で。
「…料理なんてするんだ?」
「アネキが残業のときとか
俺が作ったりしてたからな」
「お姉さんがいるんだ?」
「……」
少年Aが急に無口になった。
炒めた具材を
レトルトカレーと
コンソメスープで
少し煮込んで
チープなカレーが
イッキに豪華な食事になる。
果物ナイフでトマトを
飾り切りなんかして
そのナイフを普段から
扱いなれてるんだって
見せつける。
少年Aの左斜め前に座って
見張られながら
食べるカレーは
味なんてしなかった。
テーブルの前には
刃を出したままの
果物ナイフが
おきっぱなしにされていて
何かあったら
そのまま刺すぞと
言わんばかりで
手に握られてるときより
リアルで恐かった。
沈黙が続いていて
水を飲む喉を鳴らす音が
気になるくらい
静かで。
ふいに鳴った
自分のケータイの着信音に
必要以上にビビって。
「…出ろよ」
少年Aはナイフを
再び右手で握って
私の後ろから
抱きつくようにして
首元にナイフを
かざしてみせた。
電話の向こうで
ママが私の名前を呼ぶ声を
確認して
思わず涙があふれてきた。