「ちゃんと予備校の場所
わかった?」

「ひとりで淋しくない?」

「ご飯ちゃんと食べてるの?」


どれひとつ満足に
答えられなくて。

ナイフの切っ先が
私の方に向き直す。


「…大丈夫だから。
心配しないで…」


電話の向こうで
妹がかけているらしい
テレビの歌番組が
大音量で聞こえてきて。

ママは
私の声が震えているコトに
気づいていないようで。


「じゃ、電話代
勿体ないから。切るわね」

なんて

呑気なモノで。


「やだ!
まだ切らないで!」


その瞬間

鮮血が私の前に
広がって。


「…ううん。
何でもないの。
声が聞きたかっただけ」


1日目で
もうホームシックかと

ママは電話の向こうで
笑ってて。


私が恐怖に
固まっていたなんて
想像すらしていなかった
みたいだった。


「…もうすぐドラマの
始まる時間だから」

って。

明るい声でママが
電話を切っちゃって。


その瞬間。


終わった

って思った。