「キスシーン…ですか?」
「そう、たぶん本当に
しなくてもいいとは思うけど」
予想もしなかった
仕事の中身に
コウの家のリビングで
コーヒーを手に
固まってしまう。
現場のノリで
相手のモデルさんに
本当にされちゃうコトも
あるらしいから
「覚悟しててね」
なんて
コウのお母さんは
あっけらかんと笑ってて。
…冗談じゃない。
たかが航空会社のCFの為に
キスなんて!!!
「そんなの契約に
入ってないハズ…」
「あら、入ってたわよ。
オーディションの
応募要項にしっかりと」
そんなの聞いてないッ
!!!!!!!!!!!
めまいがする。
アタマの中がクラクラして
反論するコトバも出てこない。
「キスくらい、いいわよね?
ほら、相手もハンサムな
外国人モデルだし」
「……」
相手なんて関係ない。
「皆見てるからって
緊張するコトは
ないんだから。
むこうがリードして
ムードつくってくれるから
大丈夫よ」
そんな心配なんかしていない。
「まさか17歳にもなって
ファーストキスも
まだとかじゃないでしょ?」
「……」
「…もしかしてまだ、とか?」
…まだ、ですけど。
「……」
「…そっかあ」