ルールなんて知らない
「はあああああああ」
「何溜息なんかついてんだよ」
そう言って
机の上で突っ伏していた
私のアタマを
通りすがりに
教科書で小突いていったのは
サッカー部の補欠
ケータ。
「溜息なんかついてるヒマ
あるんなら
サッカー部の練習見に来いよ」
「うるさいな!
もう、サッカーなんか
どうでもいいんだから」
「何だ?
あんなに毎日のように
練習場に通ってきてたくせに
何だかんだ言ってても
結局はオトコ目当ての
見学だったか」
「…フカザワ先輩みたいに
華麗なシュートを
補欠くんが
見せてくれるワケ?」
「ケロが見に来てくれて
黄色い声援送るくれたら
間違って頑張るヤツも
でてくるかもよ」
間違ってって
どういう意味だ。
それに
「私の名前はカエデ!
カエルでも
ケロでもありませんッ!」
「俺も補欠くんなんて
名前じゃないから」
かっかっかと
高笑いしながら
ケータは教室を出て行った。
「彼氏のお誘い断るなんて
余裕あるよね〜」
クラスメイトが
私を冷やかしてくる。
「何度も言うようだけど
彼氏なんかじゃ
ないんだからね!!」
「照れない、照れない」
なんて。
皆して私があの補欠くんと
つきあってるって
本気で信じてるから嫌になる。
元はと言えば
雨の日にアイツと
相合傘をして帰ったのを
友達に見られていたのが
キッカケで。
急な夕立ち。
あのときケータは
自分の懐に子犬を
抱え込んでいて
子犬が濡れないように
背中を丸めながら
小走りで坂を登ってきて。
子犬を入れている
Tシャツも透けてるくらい
自分はずぶ濡れで。
思わず声を
かけてしまった。
サッカー部のランニングの途中
捨て犬されてる
そのコをみつけて
通りがかる度に
ずっと気になっては
いたらしいんだけど。
そのコはいっこうに
拾われる様子はなく…。
「さっき覗いたら
何か様子がおかしかったから」
動物病院に
連れていくんだと
ケータは舞い上がっていて。