慎重なケータは
私ひとりを
先輩のアパートに向かわせて
自分は少し離れたトコロから
様子を窺っていた。
家にいくと
状況を知らない天使が
私という突然の来訪者に
とびっきりの笑顔をみせる。
前に見たときより
お腹がおおきくなっていて。
ちょっぴり複雑だった。
彼女に事情を話して
荷物をまとめるよう促した。
なのに天使は
突っ立ったままで。
「…無理なんだ。
最初から逃げ切れるなんて
思ってなかったし」
弱音を吐いた。
「私のお父さんは
蛇みたいに
しつこいヒトだから」
どこまでも追ってくるのは
わかってた。
「でも
ひろちゃんの素性まで
バレてしまってるなんて
もう逃げようなんて
ないもの…」
天使は泣きながら
笑った。
「最初から無理だって
わかってた。
皆が私達のコト
世間知らずな
おママゴトだって
指さしてるのも知ってる」
それでも
「束の間でも
ひろちゃんの傍で
奥さんのマネゴトできて
すごいうれしかった」
「私なんかひろちゃんに
ふさわしくないって
わかってる」
自分なんかと違って
勉強も出来るし
いいトコのおぼっちゃんで
「いい大学に行って
もっと美人で
アタマのいい女のヒトと
結婚できるハズで…」
なんて。
「やめてよ!!」
思わず妊婦を
怒鳴りつけてしまった。