「う…そ」

フカザワ先輩…?


髪がすごく伸びていて
アゴには
ヒゲなんか生やしてて


シェフみたいな
格好をしたそのヒトは

すっかり別人のように
なっていたけれど。


そのシルエットは
練習場で私が追っかけていた
そのヒトのモノで


確かに
フカザワ先輩だった。


「ケータ…!」

フカザワ先輩は
ケータに駆け寄ってきて

「ひさびさだなあ!」

懐かしそうに
唖然としているケータを
抱きしめる。


「フカザワ先輩ッ!

こんなトコで
何してるんですか!

皆心配してたんですよッ!

ご家族だって…!」


「……」

フカザワ先輩は
叫ぶケータの背中を
ポンポンと叩いて。

「昼飯、まだなんだろ?」

食ってけと
私達ふたりを店の中に
迎え入れた。


そこは
いわゆるスポーツバーで

昼間はカフェとして
開放されてて

サッカー好きな少年で
いっぱいだった。


フカザワ先輩やケータも
行きつけにしていたらしい。


私達ふたりは
2階の開放されてない
バー・スペースに
案内される。


「灯台もと暗し、ですよね」

こんな近くに
潜伏していたなんて

誰が想像できただろうか。


「よく今まで
バレませんでしたよね」

「いつもは
キッチンの方にいるから」


フカザワ先輩の笑顔が
優しい。


カウンター席の向こうで
作ってくれるハンバーガー。

「まだこういうのしか
作らせては貰えないんだけど」


凄くおいしかった。


憧れの先輩の手作りを
食べてるというのに

何故だかテンションが
上がらない。


隣りに座っているケータの
固い表情が
状況の深刻さを
物語っていて

重苦しい空気が流れていた。


「皆、元気?」