「…俺さ。

中学のとき試合中に
他の選手と接触して

ヒザを壊しちまってさ。

サッカー続けるの
断念してたんだよ」


サッカーを見るのも
嫌になってたケータに

フカザワ先輩は
サッカーをやろうって
毎日手紙を書いて
ケータの靴箱の中に
入れていたという。

「サッカー好きなヤツは
何があろうと
サッカーを
捨てられないんだって

そう書いてきてたのは
先輩の方だったのにさ」


私の背中を押す
ケータの手が心細い。


補欠だなんて
さんざんケータのコト
からかってしまってた。

けど

「ごめん」って謝るのも
何だかケータを
傷つけてしまいそうで。


ゴシゴシと涙を拭いて
勢いよく顔をあげる。


「サッカー選手なんて
グラウンドで光り輝いて
ナンボのモンなんだから!

あんなフカザワ先輩に
遇ったコトなんて
記憶から抹殺してやるんだ!」


粋がってみせた。


「おまえ、なあ」

ケータが苦笑して

「野球じゃないんだから
グラウンドじゃなくて
ピッチって
表現して欲しかったな」


熱心に追っかけてたわりに
ルールも専門用語も
全然だな、って

ケータが私をからかう。


「何か喉乾いたな〜」

「ご馳走してくれるんじゃ
なかったっけ」


「まだ何か腹ン中入るのかよ」

「デザートは別バラ!」

ケータがポケットを探る。


「あ、ケータイ。
フカザワ先輩に
渡しちゃったんだった」

店の検索もできないと
ケータはまたボヤキ始めた。

「自分から
使ってくださいって
無理矢理置いてきたくせに」

「だって、今どきケータイも
持ってないなんて不便だろ。

妊婦に何かあったときに
連絡がつかないなんて
洒落になんないし」


それはそうなんだけど。


「いいカッコしちゃってさ〜」

「うるせ〜」


もっとも

こういう
後先考えなしのバカなトコが

ケータの
憎めないトコでもあるんだが。