「ああ、このネコね。
知ってるよ。
このみゅ〜んトコの…」

だああああああああああ
!!!!!!!!!!


大慌てでノートに
《黙ってて》って書いて
サトルの後ろから
おやっさんに
カンペに見せる。


「え?
知ってるんですか!」


私はあらん限りの力を込めて
おやっさんに目で訴えた。


「あ、いや。あの。

…勘違いだ。勘違い。
わっはっは」


あっはっは。

逃げるように立ち去っていく
おやっさんの後姿を

サトルは
ボー然と見送っている。


「…何だよ〜。
知ってるって言ったよな〜」


サトルががっくりと
うな垂れて

「はあああああああああああ」


長い溜息をついた。


たいした収穫もなく

とぼとぼと自転車を押して
宿に戻るサトルは

初めて会ったときよりも
さらに憔悴しきっていて。


「これだけ
ココロ辺りを回ったのに
手がかりすら
見つからないなんて

誰かに部屋で
飼われてるのかなあ」


「きっとそうよ!!」


私が休みの日とかに
一軒一軒
訪ねて回ってみるから

後は私にまさせて
東京に帰るように
必死で促す。


「みゅ〜…」


情けない声を出して
すがるような目で
こっちを見てて。


…良心が痛む。


「ほら、いい加減
仕事しなきゃ
いけないんでしょ?」

「…マーガレットお」


「ほら、マーガレットを
想う気持ちを
詩に書いて
曲をつくるんだ!!」


一生懸命
サトルの気持ちを
盛り上げる。


「……」

「あ、コーヒーね!
砂糖とミルク
いっぱい入れるんだったよね」


「……」

サトルは
ふらりと立ち上がって
キーボードの前に座った。