翌朝。

気まずかったけど
朝食の準備ができたから
部屋まで呼びにいった。

部屋のフスマには

《起こさないで》って
張り紙がしてあって。

子どもみたいな
下手な字にちょっと
苦笑する。


ごろーまるが
出入りできるようにとの
配慮からなのか

ごろーまるサイズに
フスマが開け放たれていて。


その隙間から
そっと様子を窺ってみた。


ふとんを蹴り飛ばして
まるくなって眠っている
サトルの姿。


その枕元で
当たり前のように
ごろ〜まるがアゴを
突き出して眠ってる。


Tシャツが胸辺りまで
めくりあがっていて

相当寝相が悪そうだ。

朝起きたら
旅館の浴衣が
腰ひもだけになっている
タイプだろうな。


私はこの後
学校だし。

これでこのヒトとも
たぶんサヨナラで。


ごろーまるとも
お別れだった。


しあわせそうに
眠ってるふたりを見てたら

何だか凄い
哀しくなった。


せめてこの目に
ごろーまるの姿を
焼きつけようと思ったのに

目の前が
どんどん涙でぼやけて
それを許しては
貰えなかった。


「…うッ」


私は声が漏れないように
必死で自分の口を押さえて

その場にへたり込む。


「ぶみゃ〜ご」

そんな私の気配に気づいてか
いつの間にか目を覚ました
ごろーまるが
私の足首にすり寄ってきた。


それはごろーまるが
エサをネダるときの
いつものサインで。

「…おいで。
今日はフンパツして
おまえの好きなモノ
たくさんあげる」


意味がわかったのか

ごろーまるは
しっぽをピンと立てて
私を台所まで扇動する。


あんまりじっくり
見たコトがなかったけど


「…おまえ
確かにメスだったんだね」


太りすぎと毛のせいで
タマタマは
隠れてるんだとばかり
思ってた。


ごろーまるに
最後の食事をやって

その食事中のアタマを
何度も何度も
撫でてみた。


ちょっとシットリめの
やわらかい毛。

いつもは
こんなに長くは
触らしてくれないくせに


このコもお別れだって
思ってて

サトルと帰る気
満々で…。


「ばいばい…」

ごろーまるのアタマに
最後のキスをして


私は自分の甘えを
振り切るように


家を出た。