『時給二千円でどう?』
「……」
『二千三百!』
「……」
『二千五百ッ!!』
「……」
『二千六百ッッ!!!』
…天井知らずに
上がっていく時給に
不安が一層、おおきくなる。
「…太極拳って
武術ですよね?」
周りは高齢者だと
油断させておいて
実は私に
太極拳の使い手の
相手になれ、とかッ?
挙げ句の果てには
怪しい地下プロレスに
出場させられて
しまうとかッ!?
「絶対に無理ですからッ」
『格闘技や護身用に
習うヒトもいるけれど
公園でやっているのは
健康、長寿が目的な
早起きさんばっかだから!』
「……」
『動きもゆっくりで
型も簡単だし!
いっしょに動きを合わせて
体操でもしている感覚で
O.Kだからッ
ねッ!?』
だったら
地味なジャージ着て
帽子を目深に被って
参加していれば
悪目立ちなんかせずに
すみそうなモノなのに。
『もうッ!
時給五千円
出してもいいわッ』
…絶対にこのバイト
受けてはイケないッ。
不安は確信に変わった。